阿寺渓谷における通信手段確保実験

無線通信実験活動

阿寺渓谷は携帯電話サービスエリア圏外

阿寺渓谷は渓谷入口から阿寺渓谷キャンプ場まで6.3Kmにも及ぶ自動車にて通行可能な渓谷で大桑村を代表する観光スポットのひとつですが、そのほぼ全域が携帯電話サービスエリア圏外となっています。阿寺渓谷内で何かしらの緊急事態が発生したとしても、その通報の為には阿寺渓谷入口まで戻らねばならないのが現状です。大桑村の阿寺渓谷ガイドにも渓谷入口を過ぎると携帯電話が利用できなくなる旨、注意喚起が記載されています。

アマチュア無線は利用者が多い通信手段

アマチュア無線はその利用者数が多い無線通信手段です。大桑村村内には64局のアマチュア無線局があり、人口比でほぼ1.7%です(60人に1人の割合)。全国も多数のアマチュア無線局が活動されており、アマチュア無線が災害・遭難時等での情報伝達手段として活躍するケースもニュースで伝えられています。

阿寺渓谷での無線通信の課題

渓谷内では持ち運びに便利な携帯型無線機(ハンディトランシーバー)での通信が想定されます。このタイプの無線機はアンテナが小さく送信出力上限も5Wであるため通信範囲が限定されます。このような無線機の電波を受信する相手局は可能な限り渓谷の近くに配置する必要があります。
一方、通信相手となるアマチュア無線局は村内各所に広く分散しています。少しでも多くのアマチュア無線局と交信するためには、村内全域を通信範囲に出来る場所にノード局(中継局)を配置することが望まれます。
これらの条件を満たすためには、今までに無い新しい通信手段を構築する必要があります。

採用した技術:WIRES-X

無線通信とインターネットを融合し、電波が届かない所にはインターネットで通信音声を届けることで通信可能範囲を拡張する技術が幾つか実用化されています。その中でもWIRES-Xはアマチュア無線の世界では広く普及している無線・インターネット融合技術です。

WIRES-Xは、インターネットを使う事で互いに電波が届かないアマチュア無線局間の通信を可能とします。各無線局は普段使用しているトランシーバーでノード局に向けて電波を送ります。ノード局はインターネットでWIRES-Xに繋がることで、同様にWIRES-Xに繋がっている他のノード局を介して遠方のトランシーバーに電波を送ることができます。WIRES-Xでは一対一のノード間通信に加えて、多数のノード局が参加できるルームを開設することができます。各ノードは特定のルームに接続することで多数の局と通信することが可能となります。

WIRES-Xによる渓谷通信

山岳地帯や渓谷など携帯電話サービスエリア圏外と通信できる範囲にノード局(ノード局X)を配置するとともに、他のノード局(ノード局Y)を市街地に配置します。これらのノードをWIRES-Xに接続し、同一ルームに繋ぎます。この結果、携帯電話サービスエリア圏外のトランシーバーと市街地のアマチュア無線局とWIRES-Xのルームを使った通信が可能となります。

WIRES-Xによる阿寺渓谷内通信実験

阿寺渓谷内のアマチュア無線による通信手段確保実験のため、以下の通信環境を構築しました。

ノード局X(阿寺渓谷通信用ノード局)

設置場所:大桑村野尻川向地区
WIRES-XノードID:JR0ZFE-ND4
通信設備:周波数144.540MHz、FM変調、トーンスケルチ118.8Hz、送信出力10W、2段GPアンテナ

阿寺渓谷内で使用した携帯型無線機

FT-70D 八重洲無線製、最大出力5W、付属ホイップアンテナ

TH-K20 KENWOOD製、最大出力5W、1/4λホイップアンテナ

ノード局Y(市街地ノード局)

設置場所:大桑村和村地区
WIRES-XノードID:JR0ZFE-ND
通信設備:周波数144.600、C4FM変調、送信出力10W、1/4λ

実験結果と考察

阿寺渓谷入口から最奥施設の阿寺渓谷キャンプ場までの間の阿寺渓谷内全域で、携帯型無線機と村内各所のアマチュア無線局との交信が可能であることを確認しました。

アマチュア無線局は局数が多く、常に誰かが受信している可能性があります。その為、緊急通報に対しても対応できる可能性が高くなります。また、この通信手段を使って定時通信などを行う事で通信環境の機能確認と機能維持が可能となります。アマチュア無線なのでベスト・エフォート的なシステムとなりますが、阿寺渓谷内の通信手段として大いに役立つものと思います。

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